日本新生児成育医学会雑誌 31(1):159-185;2019 印刷する
日本新生児成育医学会雑誌 第31巻 第1号 159~185頁(2019年)
新生児に対する鉄剤投与のガイドライン
2017早産児・低出生体重児の重症貧血予防と神経発達と成長の向上を目的として
日本新生児成育医学会 医療の標準化委員会鉄剤投与のガイドライン改訂ワーキング・グループ
---緒言---
新生児は生理的に鉄欠乏性貧血をきたしやすく,早産児・低出生体重児では重症化の危険性が高い。早産児の貧血は,その発症時期と病因により,早期貧血と晩期貧血に大別される。早期貧血は,胎内から胎外へ移行する際の高濃度酸素暴露に伴い,出生後のエリスロポエチン産生が抑制されていることが原因で,生後4 ~ 8 週に出現する。晩期貧血は鉄欠乏が主たる原因であり,生後 16 週以降に出現する。さらに身体発育に対する貯蔵鉄の絶対量の不足も増悪因子となっている。これらの病態に対して 1950 年代から早産児への鉄剤投与が検討されてきており,救命率の向上と栄養管理の進歩とともにその投与方法の検討が重ねられてきた。 本邦の新生児栄養フォーラム小委員会鉄剤投与委員会では,科学的根拠(EBM)に基づいた「早産児に対する鉄剤投与のガイドライン」を 2003 年に刊行した。ガイドライン刊行以降の鉄剤投与に関する根拠に基づく医療の進展として,早産児の栄養管理と神経発達予後との関連が強調されるようになった。鉄は,脳エネルギー代謝,神経伝達,髄鞘化などに関係し,鉄欠乏は発達段階の脳に及ぼす影響が大きいことが報告されるようになった。また,鉄欠乏とともに,鉄過剰による酸化ストレスが懸念されるようになった。体内の鉄イオンが過剰な状態になると体内での活性酸素が増加し,さらに Fenton 反応によるフリーラジカル産生の悪循環に陥る。早産児においては慢性肺疾患,壊死性腸炎,未熟児網膜症,脳室周囲白質軟化症などが,鉄過剰に伴う活性酸素種に起因すると考えられてきている。このような科学的根拠の蓄積を考慮して,2013 年よりガイドライン改訂作業を開始した。 「早産児に対する鉄剤投与のガイドライン」の目的は,早産児を対象に,経口鉄剤補充によって,正期産児の鉄貯蔵状態に近づけることであった。改訂にあたり,対象は新生児とし,ガイドラインの目的は新生児の重症貧血の予防(輸血回数の減少)および成長・神経発達の向上に変更した。作成方法は,「Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2012」を参考にした。国内外の論文について系統的かつ網羅的に検索を行い,エビデンスに基づく情報を的確に利用者に伝えることを重視した。エビデンスが得られないものについては,アンケート調査や改訂ワーキンググループ内でのコンセンサスを補足として提示した。 鉄欠乏の管理は新生児期に限らず,胎内からの管理も必要である。妊婦の食生活や喫煙の問題,妊娠高血圧症候群や胎児発育制限管理も十分に行い,出生後の栄養管理にも配慮が必要である。 本ガイドラインが,皆さまの日常診療の中で活用され,より多くの新生児の健やかな成長発達の一助となることを切に願う。
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