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新生児医療へのいざない新しい命の誕生と成長に寄り添うという選択

新生児医療へのいざない
  • みなさんは新生児医療には、どのようなイメージがありますか? 
    可愛らしいイメージでしょうか? それとも厳しいイメージでしょうか?
    新生児医療に携わる医師は、早産・低出生体重児をはじめ、新生児仮死、先天性疾患など、新生児期に発症するすべての疾患を診療します。また集中医療をうけた子どもたちが健やかに育つよう、家族とともに見守り、必要な医療・福祉・教育を提供することも重要な役割です。
    つまり予測困難な赤ちゃんを救命するという“緊張感”と、赤ちゃんと家族の絆を育む“暖かさ”が混在しているのです。
    このページでは、私たちが愛する新生児医療の真髄を、さまざまな立場で活躍されている先生方から存分に紹介してもらいました。
    ぜひ読んでみてださい。
    きっと“あなたが目指す医療”を見つけ出すことができることでしょう。
    早川昌弘先生
  • 早川昌弘理事・教育委員会委員長
    (名古屋大学医学部附属病院総合周産期母子医療センター)
新生児医療へのいざない

究極のオールラウンダー 新生児科医とは

  • 「新生児科医」には、ジェネラリストとスペシャリストが共存します。早産児、低出生体重児の管理には専門性が求められます。「後遺症なき生存」を目指して、献身的かつ繊細な管理が求められます。呼吸循環の集中管理はもちろんのこと、神経、栄養、発達、感染など、領域は多岐に亘ります。NICU卒業生はフォローアップも重要です。リハビリ、児童精神、神経、整形外科、眼科などなど、専門各科との連携は欠かせません。そのコーディネーターとしての役割も新生児科医には求められます。
    新生児蘇生法は、周産期に携わる全ての医療者が身に着けるべきスキルで、その普及、教育にも関わります。乳児検診、予防接種など、予防医学の観点から子ともたちの生活の質、安全を高めることも重要です。小児科医となった時に思い描いた全人的な医療への志は変わらない決意として持ちつつ、新生児医療という新たな視点から自分を見つめ直した時、そこにはまた別の風景が見え、より深い専門性が感じられることと思います。
    小林正樹先生
  • 小林正樹札幌医科大学附属病院産科周産期科
新生児医療へのいざない

あかちゃんの守護神になれるまで…研修概説

  • 周産期専門医は、小児医療におけるサブスペシャリティとして位置づけられています。そのため、小児科専門医として知識と経験を習得したうえで周産期専門医としての研修が開始されます。その研修において新生児の特性を考慮した技術や知識を得ることができます。近年では、家族構成や家庭環境が多様化しているため、状況に応じた倫理的配慮のスキルも必要不可欠です。
    また、新生児をケアする上で多職種連携が重要です。周産期専門医の研修は、「よりよいチームワーク」を育む機会となります。
    新生児科医は、生命予後に大きく関与する急性期の治療を選択、導入することになります。そのためには、医療の躍進に向けて探求心を持ち続ける必要があります。一方、急性期を乗り越えた児の発育?発達について優しく見守り、時には案内人となって家族とともに歩んでいく覚悟も必要です。
    あかちゃんの守護神として必要なことは『技術・知識の充実』『あかちゃんの将来に配慮した医療の提供』そして最も必要なアイテムは『優しさ』です。
    久保田真通先生
  • 久保田真通倉敷中央病院小児科
新生児医療へのいざない

光の医療に包まれて

  • 私は、出産予定日より随分早く産まれたため、出産直後に名古屋市立大学病院に救急搬送されました。そして、約2か月間NICUでお世話になりました。その頃の記憶は全く残っていませんが、先日約16年ぶりに小児病棟、NICUを見学し改めて感じたことがあります。
    それは、今自分が生きていられるのはとても幸運で、奇跡のような出来事だということです。「奇跡」というと大袈裟だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私はそうは思いません。両親からは「あなたと同じ時期にNICUにいた赤ちゃんの中には亡くなってしまった子もいるんだよ」と聞きました。今こうやって私が特に大きな病気もせずに健康でいられるのは、必死に治療をしてくださった主治医の先生方や、看護師さん、そして多くの愛清を注いでくれた両親のお陰であると実感しています。
    もし、これらの方々のご尽力がなければ、私は普通に生活をすることも夢を追いかけることもできなかったでしょう。今、こうしてこの文章を書くこともなかったかもしれません。これらの方々には感謝してもしきれません。
    また、小さい頃の写真を見ると主治医や看護師さんたちに抱かれている写真が多くあり、どれだけ多くの皆さんのお陰で今の私があるかを感じ取ることができました。
    今、私と同じようにNICUにいる赤ちゃん達も皆元気に育って欲しいと願っています。
    そして、私も助けられた命を無駄にせず、将来自分と同じような境遇で産まれた赤ちゃん達を救えるような小児科医になることを目指しています。
    尾崎 翠様
  • 尾崎 翠
新生児医療へのいざない

最重症児最後の砦で学ぶ

  • 後期研修3年目で、経験は浅いのですが、NICUに入ったばかりの立場として執筆させて頂きます。当院は県内唯一の総合周産期母子医療センターで、言葉通り、県内最重症児最後の砦です。最後の砦というと、重症や緊急事態が多く、鋼の気力と体力を持った鉄人Dr.ばかりの怖いイメージがありました。確かに、当院も重症・緊急が多く、鉄人もいます。私は鉄人にはなれないし、赤ちゃんが大好きな気持ちだけでは続けられないかなと、最初は不安でした。しかし、今ではスタッフや教育体制に支えられ、毎日楽しく学ぶことができています。
    当院では、指導医とペアで動くので、一人ぼっちで迷うことがない心強い体制があります。また、みんなで把握する、仕事は分担する、自分の当番はしっかり働いて休む時は休む、といったユニットならではの環境で、一人に負担がかかり過ぎず、みんながハッピーな雰囲気で仕事をしています。鉄人ではない私でも楽しく学ぶことができています。
    赤ちゃんが大好きな皆さん、是非一緒にやってみませんか。
  • Q   新生児科医を目指す若手の皆様に一言!
  • 新生児医療は、言葉の話せない赤ちゃんの気持ちに寄り添う、他科にはない優しさが魅力だと思います。医学生・研修医の皆さん、一度でいいのでこの魅力に触れてみてください。
  • 吉原知里先生
  • 吉原知里和歌山県立医科大学附属病院総合周産期母子医療センターNICU
新生児医療へのいざない

新生児科医、3児のママになる

  • 第1子を妊娠したのは、卒後5年目。念願かなって初めてNICU専属で配属された年でした。これからバリバリ働くぞ、とやる気に満ち溢れていたところでの妊娠発覚に、情けないくらい動揺した記憶があります。
    あれからもうすぐ10年。おなかにいた子はもう小学3年生で、私は今や3児の母です。理解のある上司と仲間に恵まれ、時間はかかりましたが、周産期専門医も無事取得。少しずつ責任ある立場での仕事も任せていただけるようになりました。大変じゃないと言ったら嘘ですが、NICUを元気に巣立っていく赤ちゃんたちをモチベーションに、そして「大きくなったらママと一緒に病院で働く」と言ってくれる我が家の子どもたちを癒しに、日々頑張っています。この10年、子どもを持つ女性医師へのサポートはずいぶん手厚くなったと感じます。あの時、あんなに動揺していた若い私に、今なら「なんとかなるよ」と言ってあげられると思います。赤ちゃんと集中治療の好きな方、ママ新生児科医を目指しませんか?
    猪又智実先生
  • 猪又智実富山大学附属病院周産母子センター
新生児医療へのいざない

新生児科医として地域で輝くために

  • 昨年より静岡県東部の地域周産期母子医療センターで勤務しています。静岡県立こども病院で後期レジデントののち、同院で新生児科医としてのトレーニングを受けました。ほぼ全患者が中等症~重症という特性のNICUでしたが、小児に特化した外科・脳神経外科・心臓血管外科など各科の支援を受けられる環境で、仲間にも恵まれ、22週早産児から正期産児まで、先天疾患、周術期管理などたくさん経験し、毎日が充実しました。尊敬する上司の影響で毎晩ジャーナルを読み、今は一つの趣味になりましたが、最初の苦労を忘れたわけではありません。医局に属さない私は沼津市立病院へ自分の意志で就職しました。
    今はスタッフとともに、NCPR講習会を開催し、輪読会や毎週の新生児レクチャーを始め、児童発達支援センターとの提携をシステム化するなど、診療以外の活動も大切にしています。バリバリ行動する年代と自覚し、これからも活動を続けていきます。
    野口哲平先生
  • 野口哲平沼津市立病院小児科・新生児科
新生児医療へのいざない

新生児科医の第二の研究室
―日本と世界の未来を牽引するために―

  • 新生児科医の仕事のひとつは、生存限界に近い超早産児の出生時蘇生に始まり、成長と育成に関わる医療です。現場はダイナミズムに溢れていますが、いずれ集中治療医としての勤務限界の時が来ます。それからはフォローアップを継続しつつ、家庭医としての新しい展開の日々ですが、さらに意義深い仕事が待っています。
    日本の超早産児の罹病率と死亡率は世界でもっとも低いという輝かしい成績を維持しています。関係者の努力の結晶として、2003年から極低出生体重児の臨床データを集積したビッグデータ(60,000例以上)が構築されつつあります。そこには、より良いアウトカムを得るために何が重要なのかを明らかにできる宝物が埋蔵されています。独創的な知識と経験を生かす場がそこにあります。
    これを土台にして10年で49の英文論文が発表されました。ビッグデータを解析して、最善のアウトカムに向かって日本と世界の未来を牽引するために働くことができる、円熟した新生児科医の第二の研究室です。フロンティアはまだ先にあります!
  • Q   新生児科医だったからこそ実現できたことは?
  • 小児科医として関心をもったヒトの成長についての科学や知識、そしてそれに貢献できる臨床や研究に従事できました。
  • Q   世界の新生児科医と交流するには?
  • 世界に発信できる発表をすることにつきると思います。
  • 藤村正哲先生
  • 藤村正哲大阪母子医療センタ一新生児科
新生児医療へのいざない

赤ちゃんたちによりよい未来を届けるために

  • 「どうしてこれで呼吸ができるんだろう?」初期研修医のとき、HFOを見てそう思い、人工呼吸に興味を持ちました。より深く呼吸療法の勉強がしたくて異動してきた長野こどものPICUやNICUで、ヘリウムガス吸入など様々な実験的な治療を試みましたが、成果と呼べるものが得られませんでした。そんな中で出会ったNAVA:Neurally Adjusted Ventilatory Assistは横隔膜の電気的活動を利用する画期的な呼吸器で衝撃を受けました。当院に導入した後、NAVAの使用方法を模索しているところ、NAVAを頻用していることで注目していたFinland Turku大学NICUに留学する機会を得ました。
    実験室でやることだけが研究ではありません。研究はある意味で好奇心を前提とした競争の要素があります。しかし、誤解を恐れずに言うと、臨床研究は赤ちゃんたちの予後を改善できれば、誰がどうやってもいいのだと思います。
    若い皆さん、私たちの仲間に加わってよりよい治療法を日本から発信してみませんか?臨床の現場でお待ちしています。
  • Q   診療とプライベートの両立方法は?
  • チーム制のNICUであれば、On-Offがはっきりしています。休みの日に呼び出されることはめったにありません。休みはもっぱら子どもたちと全力で遊んでいます。子どもが大きくなって遊んでくれなくなったら、と正直少し心配です。
  • 小田 新先生
  • 小田 新長野県立こども病院総合周産期母子医療センター新生児科
新生児医療へのいざない

チームを束ね、研究マインドのある新生児医を育てる

  • 「伝統を引き継ぎ、次世代へ継代する」これはどの組織や分野でも重要ですが、その最たるものが新生児医療ではないでしょうか。新生児医療のメインは臨床ですが、その臨床の発展を支えるのが臨床・基礎研究です。研究は将来このような医療ができるようになれば良いなあという理想の新生児医療の姿を目指す夢の実現の第一歩です。研究も医療と同じで、ひとりではできません。同じ志を持ったチームで行います。チームを束ね、運営する立場になり、私は研究マインドのある次世代の新生児医を一人でも多く育てることが生きがいになっています。
    早産児や新生児はまだまだ未知のことが多く存在し、診断や治療方も未確立です。研究を行い、その結果が論文や学会で評価されると何事にも変えれない喜びがあり、充実感は絶大です。
    臨床も研究もでき、将来の発展性のある新生児医療の世界で一緒に切磋琢磨しましょう。お待ちしています。
  • Q   臨床経験は研究に有利になる?
  • 研究は理学部でも工学部などの出身者でも可能ですが、ヒトの臨床に直接関与する研究ができるのは医学部出身の医師のみです。当然ながら、臨床経験は研究を遂行する上で大きな強みであることは間違いありません。
  • 森岡一朗先生
  • 森岡一朗日本大学医学部小児科学系小児科学分野
新生児医療へのいざない

NICUを出た新生児科医―そしてプライマリに還る―

  • 2011年に内科小児科で開業している実家のクリニックヘ戻りました。当時は内科が中心のクリニックでしたので、とても戸惑ったのを今でも覚えています。さらに、近隣の老人ホームの嘱託医も受けねばならず、認知症や寝たきりの方も多く戸惑うことは多々ありますが、NICUで培った”データだけでなく全身を診る”という、赤ちゃんたちに教えてもらったことが今でも非常に役に立っています。開業医としての外来診療、在宅医療に加え、近隣のNICU当直(1~2か月に一度)も行っています。特に在宅医療はNICUではあまり見ることのできなかった親子の姿を間近に見ることができ、多くの学びがあります。
    当院は田舎の診療所ですので、赤ちゃんから老人まで来院されます。新生児科医で大丈夫?と言われることもありましたし、不安にも思っていました。しかし、今では“新生児科医だから大丈夫!”と言えます。皆様も自分なりのプライマリケアを目指してはいかがですか。
  • Q   新生児科医を目指す若手の皆様に一言!
  • ぜひ、新生児医療へ足を踏み入れてほしいです。楽しいばかりではないですが、赤ちゃんが教えてくれること、赤ちゃんと一緒に過ごす時間はかけがえのないものです。後悔はさせません、お待ちしています!!
  • 藤野 浩先生
  • 藤野 浩医療法人藤渓会藤野医院
  • 中学生になったNICU卒業生とともに

「新生児医療へのいざない」をご覧になったみなさま、いかがでしたか。

新生児医療へのいざない
  • 世界で一番、赤ちゃんが安全に生まれる国、日本。それを支えているのは紛れもなく、高水準の周産期医療、新生児医療です。しかし、私たち新生児科医の活動の場は、新生児集中治療室だけではないことがお分かりいただけたのではないかと思います。
    私たちが守りたいものは、単にハイリスクの赤ちゃんの命だけではありません。全ての赤ちゃんの健やかな成長と発達、愛着形成のみまもりと育児支援。医療的ケアの必要な子どもたちの退院後の生活支援。成育医療の始まりを担う私たちは、子どもたちが成長する中で、必要な場面で必要な仲間たちと柔軟に連携することも重要と考え、実践しています。
    我が国の新生児医療の優れた臨床成績や研究の成果は、世界の新生児医療の中でも注目を集めています。ベンチマークやデータベースの比較によって、各国が競し1、学び合うことがすでに行われており、我が国のこれからの発展により、世界の国々の新生児医療の向上に寄与することができます。
    新生児医療で身につけたキャリアは、様々なかたちで、日本のみならす、世界の赤ちゃんとその未来のために活かすことができるのです。
    真の未来医療であり、究極の先制医療である新生児医療の世界に、飛び込んでみませんか?
    和田和子先生
  • 和田和子理事(大阪母子医療センター新生児科)