- 私は、研修医のころ、小児科医を選んだものの、新生児医療が一番“苦手”でした。
赤ちゃんは何もしゃべらないし、専門性が高すぎて経験のない自分には恐れ多くて触れることさえためらわれたからです。目の前の赤ちゃんは皆重症で、自分ひとりでは何もできないと感じました。さらに、あまりにも生命の重さに圧倒され、ご家族に何を伝えればよいのかわからず、ただ立ち尽くすしかなかったのです。 - それからもう25年以上経ち、今は本学会の教育委員会委員長としてこの言葉を書いています。
赤ちゃんはしゃべらなくても、血液ガスや診察所見から多くを訴えています。その声を正しくとらえ、適切に治療すれば、驚くほどの回復を示します。そして時間がかかっても、子どもは確実に成長し、家族も共に成長し、自分自身も医師として成長し続けていることを感じます。 - もちろん、新生児医療には目を見張るような回復や成長の喜びがある一方で、つらいこともあります。しかし、そのときのつらい経験も、今の新生児科医としての私を形づくる大切な糧となっています。
新生児医療は、一人ではできない医療です。仲間と連携し、支え合う医療です。そして必ず、あなた自身を成長させてくれる医療だと私は思います。 - この“いざない”には、医師、看護師、臨床工学技士、リハビリ療法士、研究者、子育てと両立する医師など、多くの仲間が新生児医療の魅力を語ってくれています。日本の新生児医療は世界一と言われていますが、そのヒントがここにあります。
- 新生児医療へのいざない――あなたも、ぜひ歩んでください

- 中西秀彦
日本新生児成育医学会 教育委員会 委員長
(北里大学医学部附属新世紀医療開発センター 先端医療領域開発部門 新生児集中治療学 教授)
新生児医療へのいざない新しい命の誕生と成長に寄り添うという選択
- 赤ちゃんは、出生前から母体に守られて育まれ、出生後は、親や兄弟、祖父母などに囲まれて愛情のなかで過ごします。親にとっても生まれてくる我が子を想像しながらの妊娠生活や、出産後の日々は希望に満ち溢れています。しかし、早産となったり、先天性疾患が判明したりすると、その当たり前が突如として崩れ去り、家族としての時間がないままに集中治療を受けることになります。赤ちゃんはもちろん、家族にとっても先の見えない不安な日々が続きます。明日をも知れぬ不安や緊張が強いられる中で「赤ちゃんがかわいい」という当たり前の感情が芽生える余裕すらありません。新生児医療は集中医療であると同時に、赤ちゃんに多くの愛情を注ぎ、守り育ててくれる家族の不安を和らげて支え寄り添う全人的な医療です。退院後の外来で「赤ちゃんもご家族も頑張りましたね」とお声がけした際に涙を流されるご家族を見ると、その不安は計り知れないと感じます。
- 新生児医療は新生児科医だけでは成り立ちません。医師、看護師、心理士、理学療法士など多くの医療者が一丸となって、赤ちゃんやご家族が必要なときに、いつでも寄り添いながら、よりよい未来に向かって伴に歩んでいくのが新生児医療です。他の診療科を考えている方も、是非新生児医療を知っていただき、赤ちゃんとご家族の未来を支えるチームの一員になっていただければと思います。
- 松本 敦
岩手医科大学 小児科
ともに歩む、赤ちゃん応援団へのお誘い
小さな命を囲む対話の時間
- 私の新生児医療の始まりは研修医の頃。マニュアルばかり見ていた私に、指導医は「今すぐ新生児学入門を買ってこい」と叱咤しました。目の前の現象だけではなく、なぜ起こるか、次に何が起こるかを考える。新生児医療の原点と魅力に気づいた瞬間でした。
- 家族から感謝されることもあれば、厳しい言葉に落ち込み、自分は子どもと家族に真摯に向き合えていたのかと問い直す日々。その中で大切にしてきたのが、子どもを中心に家族と共に進める医療です。「人生会議」という言葉をご存じですか?これは「アドバンスケアプランニング(ACP)」の愛称で、決して人生の終わりの準備ではなく、「どう生きたいか」を話し合うプロセスです。実は新生児医療は、このACPの繰り返しだと感じます。重い病を抱えた子どもを前に、その子はどんな人生を望んでいるか、そのためにどんな方針がより良いか、家族と本音で話し合う場面は少なくありません。その子により良い時間を過ごしてほしい。思いは同じです。
- こうした医療を支える人は多様でいいのです。没頭して周りが見えなくなる人、興味が移りやすい人――そんな生きづらさを感じてきた人は新生児科医にぴったりです。一方で特別な資質がなくても、赤ちゃんが可愛い、その思いだけでも続けられます。新生児医療はラグビーのよう。一人が万能でなくても、仲間の強みを活かして前に進めばいい。でこぼこが集まってこそ良いチームです。
- 子どもをより良くする努力を惜しまず、家族と共に悩み歩むこと――それが新生児医療の醍醐味です。誰一人として同じ子どもはいないからこそ、診療は常に新鮮で、学びに満ちています。
- 齋藤朋子
神奈川県立こども医療センター 新生児科
命を育むフォローアップ
- 「生きる力を繋ぐために・・・」
- 早産児や低出生体重児は、正期産正常出生体重の児に比べ乳児期の成長・発達、さらにAdolescent Young Adult(AYA)世代の体格や生活習慣病の発症など多くの問題を抱えています。新生児科医は、NICUから退院し社会生活へ円滑に移行できるための支援も行う必要があります。
- 「ハイリスク新生児にとってのゴールはどこですか?」
もちろん、個々の症例によってゴールは異なります。しかし、家族に囲まれて生きる力を繋ぐことがゴールへの道のりです。 - 出生直後から多くの機器に囲まれて高度医療の中で長い間過ごした小さな命は、退院という一つの節目を迎えた後も患児や家族が多くの不安と課題に取り組まなければいけません。それらの課題は、在宅医療、神経学的合併症に対する治療介入、発育状況の確認、教育問題など多岐におよびます。ハイリスク新生児は、これらの課題を乗り越えるために各専門機関の連携がとても重要です。そこで、私たちは生きる力を繋ぐ道のりにおいて多職種連携のコンダクターとなる必要があります。
- 生まれてきた小さな命が生きす力を繋ぎ絶え間ない患者さん家族の笑顔が続いていくことを心より願っています。

- 久保田真通
倉敷成人病センター 小児科
“いのち”のそばで学び続けるということ
- 私は、神奈川県立こども医療センターで新生児科の専門研修を行っています。新生児研修は楽なことばかりではありませんが、赤ちゃんたちから元気をもらいながら、日々楽しく学ぶことができています。そして、より深く学ぶことで、新生児医療の担う幅広い役割とやりがいに気付くことができました。
- 学び始めた当初は、目の前の患者さんの診療に精一杯でした。赤ちゃんとそのご家族に少しでも良い医療を届けてあげたいという気持ちで診療を行っています。良い経過の時はご家族と一緒に喜びを分かち合えますが、一方で思い通りにいかない時ももちろんあり、診療の難しさに悩むことも多いです。
- NICU退院後も、その子の成長を一緒に見届けることができることは、新生児科の良い点です。入院中の頑張りを知っているからこそ、その後の成長がより一層嬉しいです。また、お生まれになる前のご家族との関わりも非常に大切だなと、最近感じるようになりました。NICUに入院する前から、赤ちゃんやご家族をサポートすることができるなんて、とても素敵なことですよね。
- 新生児医療の魅力はまだまだ底をつきません。現在も、研修施設の先生方から多くを教えていただき、やりがいを持って研修に励むことができています。新生児科に興味をお持ちの若い先生方、是非一緒に研修してみませんか
- 森田雄介
神奈川県立こども医療センター
君はひとりじゃない
――学び合い、語り合い、つながる全国の仲間たち
- 2023年、新生児成育医学会教育セミナーに初めて参加しました。全国から同世代の医師が集う2泊3日の合宿で、そのメインイベントはcontroversialなテーマについて議論を交わすディベートです。私たちの班は「新生児慢性肺疾患ハイリスク児へのステロイド投与」を、ステロイド慎重派の立場から弁論しました。私の所属施設はステロイドを積極使用する方針であったため慎重派管理の経験がほぼなく、同じ班のメンバーが有名施設の先生方ばかりだったこともあって、当初はかなり緊張していました。しかし、いざ議論が始まると仲間と文献を読み解き議論を重ねる時間は予想以上に刺激的で楽しいものでした。臨床での悩みや地域毎の医療事情を語り合ううちに緊張も和らぎ、後半にはご当地ネタで笑い合うほど打ち解けていました。この経験で得た財産は、論文を深く読み込み「目の前の赤ちゃんにどう活かすか」を考える視点と、全国で頑張る同世代の仲間との出会いです。その繋がりは今も続いており、この原稿を書いているまさに今も、班のメンバーと臨床の相談をしているほどです。初参加時の出会いがきっかけで、翌2024年はチューターを務める機会も得ました。「合宿」と聞くと少し躊躇するかもしれませんが、その不安を乗り越えた先には、たくさんの学びと出会いが待っています。新生児医療を志す先生方に、心から参加をお勧めします。

- 中根茂晴
名古屋市立大学病院
教えることは、仲間をふやすこと
――共に学び、支え合う新生児医療へ
- 新生児医療の現場には、日々、かけがえのない命と向き合う緊張感と同時に、チームで力を合わせる喜びがあります。NICUでの医療は、医師や看護師だけでなく、様々な職種が一丸となって患者さんを支えるものです。小さな命が成長していく過程を共に見守り、支えていく瞬間に立ち会えることは、他では味わえないやりがいに満ちています。
- 僕自身は小児科専攻医を指導する立場にありますが、「教育」というよりも「仲間を増やす」という思いで日々接しています。新生児医療の道に進む後輩たちは、将来この領域を共に支える仲間であり、指導の場は一方的に教えるのではなく、自身が学びを深める機会でもあります。人に伝えることは、同時に自分の理解を問い直すことでもあり、後輩からの質問や新しい視点は貴重な学びとなります。
- それからもう一つ意識していることがあります。医療に携わる以上、困難や責任の重さは避けられないのですが、自らが楽しみを持って仕事に取り組むことが、周囲の雰囲気を変え、後輩にとっての「この分野で働きたい」という思いにつながります。だからこそ私は、自分が前向きに仕事に臨む姿勢を大切にしています。
- 仲間を増やすしていくことによって目指すのは、働きやすさとやりがいの両立です。仲間と共に学び合い、支え合いながら成長できる環境を整えることが、若い医師たちが新生児医療に魅力を感じ、長く続けていく力になります。新生児医療は決して特別な人だけのものではありません。小さな命に寄り添う気持ちを持ち、教え、刺激し合う関係性の中で様々な立場の人達が協力してNICUでのチーム医療を支えていく未来があるべき姿と信じています。
- ともに新生児医療の道を志すあなたを、NICUでお待ちしています!

- 鷲尾洋介
岡山大学
多職種が関わる新生児医療のすばらしさについて
赤ちゃんと家族の笑顔をつなぐ――NICUで感じる看護の力
- みなさまこんにちは!NICUで看護師はとても多くの役割を果たしています。医師の指示のもとに、人工呼吸器管理、輸液管理、全身の観察と異常の早期発見、日常生活援助、発達の援助、痛みのケア、母乳育児支援、家族ケア、など実に様々なことに視点を向け、新生児とその家族のサポートをしています。言語的なコミュニケーションはできませんが、私たちは赤ちゃんからたくさんのレスポンスをもらっています。提供したポジショニングで良肢位保持されながら穏やかに眠る赤ちゃんの顔!痛みのケアを提供し、心拍数増加や低酸素や啼泣なく採血を終えられたあとの赤ちゃんの顔!バイタルサインの変化やストレス反応なく体位変換が終えられた時の安堵感!ご両親と心を通わせながらともに赤ちゃんの成長を見守ることのできる喜び! NICUは治療をしながら生活し、発達し、家族形成をしていく場です。たくさん神経を使いますし、生命倫理への葛藤もありながらも、ご家族や様々な職種の方とともに赤ちゃんのよりよい成長発達とご家族の健やかな生活を支援できる、喜びにあふれた場です!ぜひ新生児看護に携わり、この喜びをともにわかちあって頂けたらと思います!

- 菅野さやか
北里大学病院
何も「しない」臨床心理士がNICUにいる理由
- NICUでたくさんの医療機器に囲まれた我が子に対面したとき、家族の心は衝撃と不安で打ち砕かれます。それでもそこから、親子はそれぞれの歩み方で、親子の関係を紡いでいきます。そのプロセスに同行するのが、臨床心理士です。
- 誰かを愛しいと思う気持ちは、その人の心に自然と湧くものです。どんな知識や技術を用いても、作り出すことはできないでしょう。ですから、NICUの親子の関係性への支援は、高度な医療技術で親子の安全を最大限守りながら、親子の心に互いへの愛しさが湧くのを、じっと待つことに他なりません。
- 心理士は、赤ちゃんの気持ちを想像しながら、家族と一緒にクベースを覗き込みます。ベッドサイドで家族の口からこぼれ落ちる、胸の内のことばを拾って大切に扱います。“愛着形成”や“疾患受容”なんて目的的なアプローチは忘れ、慰めや励ましの言葉も控え、家族のありのままの想いを肯定します。なぜなら、受け止めてくれる誰かが傍にいるだけで、多くの家族は、バラバラになった心を自分の力でつなぎあわせ、次に歩んでいくことができるからです。
- 新生児医療チームの中で、心理士は最も何も「できない」職種です。ですが、何も「しない」ことに全力を尽くしています。そんな心理士を、仲間としてチームに迎え入れてくださる医療者の方々は、親子の命だけでなく、心と未来も守る仕事-本当の意味での医療-を実践しておられるのだと思います。
- 白神美智恵
大阪大学医学部附属病院 患者包括サポートセンター
専門性を重ね、チームでいのちを支える
――特定看護師兼臨床工学技士としての挑戦
- NICUで特定看護師兼臨床工学技士として勤務しております、井出康介です。
- 私が考える新生児医療の魅力は、未来ある新生児のために、医師だけでなく看護師、臨床工学技士、理学療法士、薬剤師、そしてご両親が一体となり、チームとして医療・看護を実践できることにあります。
- 私は「特定看護師」として、新生児に最も適したタイミングで、安全かつ迅速に特定行為の医療処置や看護を、チームと連携しながら行っています。
- また「臨床工学技士」としては、児の状態に応じた医療機器の導入や特殊治療の準備、さらには退院後の在宅生活を支える医療機器の選定なで、チームと協力しながら取り組んでいます。
- NICUに入院し、やがて家庭へと帰っていく新生児により良い医療・看護を提供するには、医師だけ、看護師だけ、臨床工学技士だけでは充分ではありません。目の前の新生児の未来のために、すべての職種が各々の専門性を発揮し、チームとして力を合わせることが何よりも求められます。
- そうやってチームとして実践した医療・看護の成果により、新生児が回復し成長していく姿を見ることができる。そしてその喜びを、ご家族を含めたチーム全員で分かち合える。このような経験ができる医療現場は、他にはほとんどありません。
- ぜひ、未来のある新生児のために、新生児医療の現場で共に医療・看護を実践していきましょう!

- 井出康介
滋賀医科大学医学部附属病院
母子分離が避けられないNICUだからこそ
――母子の絆を育むリハビリテーション
- 新生児医療におけるリハビリテーションは、早産児・低出生体重児に加え、染色体異常、先天性疾患、脳障害ハイリスク児など、さまざまな背景や状態をもつ新生児を対象に、神経学的・発達評価、ポジショニングや環境調整、呼吸理学療法、発達支援、ディベロップメンタルケアなど多面的な支援を行っています。特にNICUでは全身状態の変化が大きいため、日々の観察と多職種間の情報共有を通じて、適切な介入のタイミングや方法を見極めることが求められます。
- やりがいは、医療的に不安定な時期から日々お子さんに寄り添い、その中で少しずつ成長・発達していく姿をご家族とともに見守り、喜びを共有できることです。実際に、医師・看護師・管理栄養士・MSWなどと連携しながら関わる中で、不安を抱えていたご家族が次第に笑顔を取り戻し、「かわいい」とお子さんに自然な愛情を注げるようになった瞬間に立ち会えたとき、チーム医療の力を強く実感しました。また、私自身の出産経験からも、授乳や抱っこといった日常的な関わりが愛着形成においていかに重要かを深く感じており、母子分離が避けられないNICUだからこそ、ご家族が育児に関われる機会を意識的に作ることが大切だと考えています。
- 今後も、退院後の生活を見据えた家族支援や在宅医療・地域との連携を大切にしながら、医療と発達支援をシームレスにつなぐ一員として、お子さんとそのご家族に寄り添っていきたいと思っています。

- 緒方慶衣
九州大学病院
キャリアパスとライフプラン
家庭との両立について
- 私は卒後9年目の現在、岡山医療センターで新生児科医として勤務しています。また、3歳の子どもの子育てにも奮闘しています。夫も医師であり、互いに多忙な日々を送りつつ、協力し合いながら家庭と仕事の両立に努めています。妊娠や出産により研修が一時的に遅れることもありましたが、初期研修・後期研修を経て、現在は新生児専門医取得を目指して研鑽を積んでいます。
- 新生児科医の業務は、ハイリスク新生児の集中治療から正常新生児の診療、新生児搬送、さらには産前訪問まで幅広く、多様な経験を重ねています。診療の現場は決して容易ではありませんが、NICUから元気に退院していく赤ちゃんや、外来で健やかに成長していく姿を見守ることは、私にとって何よりのやりがいです。
- 子どもの急な体調不良により業務を中断せざるを得ないこともありますが、家族や地域の子育て支援、そして職場の理解に支えられ、臨床を続けることができています。特に、周産期医療の現場は子育てへの理解が深く、同じように子育てをしながら働く女性医師が多いことも、私にとって心強い環境となっています。
- 小児科医、そして新生児科医として診療に携わる中で、自らの出産・育児の経験が患者やご家族への理解に生かされていると実感する場面も少なくありません。赤ちゃんとそのご家族のために力を尽くすことは、大きな責任であると同時に、かけがえのない喜びでもあります。この道を共に歩み、未来を支える仲間が増えることを心から願っています。

- 福田花奈
岡山医療センター
将来の赤ちゃんのため、今の自分にできる研究を、少しずつ
- 駆け出し新生児科医の頃。なんでもできる先輩と、優秀な後輩や同期に囲まれ、毎日不安に駆られていました。そんな中、私が心がけていたこと、それは、せめて自分が担当した赤ちゃんとは、ちゃんと向き合うこと。具体的には、赤ちゃんのしんどいサインや、ちょっとしたデータ異常なんかを、筋が通るように考えまくること。分からないことは聞く、納得いかないことは調べる。そうすると、新生児学としてちゃんと研究されている事実なのか、経験だけで「なんとなく」行われている医療なのか、少しずつ分かるようになりました。
- この「なんとなく」を少しでも減らせるよう、大学院に進み、分子レベルまでの学問の奥深さを知り、研究のやり方を学び。でもいきなりすごい研究なんて自分にはできないことに気付き、まずは、今の実力で、環境で、仲間で、できることを少しずつ。その積み重ねが、いつか赤ちゃんの幸せにつながると信じています。疑問に思い調べ、打開策を考え、その妥当性を検証し、論文に残し、これを続ける。研究とは、将来の赤ちゃんに貢献できるかもしれない、とても尊い行為だと思います。
- これからも、京都に生まれてきた赤ちゃんが「一番幸せ」と言われるよう、京都府立医科大学新生児グループ全員で、全力で、赤ちゃんに真摯に向き合っていきます。
- 何より、最も小さくて、最もしんどいのに、最も頑張っている赤ちゃんが、最も大切にされる、そんな社会になりますように。

- 瑞木 匡
京都府立医科大学 小児科学
新生児医療と国際連携
- 小児科医は「子どもの総合医」と称されますが、新生児医療の分野では、さらに「救急医」としての専門性が求められます。この領域では、総合的な医療技術と的確な判断力、そして「小さな命に寄り添う心」が不可欠です。
- 新生児医療のキャリアは、NICU(新生児集中治療室)での臨床業務に限定されません。臨床経験を基盤としながら、研究、教育、さらには国際協力へと、専門性を活かす道は多岐にわたります。
- アジアをはじめとする多くの国では、依然として新生児医療の支援が必要です。世界最高水準である日本の新生児医療技術と経験は、こうした国々で大きな貢献を果たすことができます。NICUの医療機器は世界共通のものが多いため、言語の壁を感じにくく、日本の医師が持つ技術を国際的な舞台で活かすことは、現実的な選択肢と言えるでしょう。
- 国際貢献の現場は、若手医師にとって貴重な成長の機会となります。日本とは異なる医療環境や症例を経験することは、医師としての視野を大きく広げます。この経験は、帰国後の臨床能力の向上にも直結します。つまり、現地の医療に貢献すると同時に、日本では得難い経験を通じて自らも成長できるのです。
- 国内の少子化という課題を、国際貢献への転換点と捉えることができます。あなたの知識と技術は、世界中の赤ちゃんの未来を救う大きな力となる可能性を秘めています。

- 安田真之
香川大学
小さな命と社会をつなぐ
- 学生の時に初めて出会った超低出生体重児の小ささを、今でも鮮明に覚えています。その姿は、赤ちゃんがいかに小さく脆弱で、守られるべき存在であるかを私に教えてくれました。新生児医療に携わる中で、小さな赤ちゃんは繊細で、些細な変化も影響することがあるため、科学的エビデンスに基づいた治療が欠かせないものだと感じてきました。一方で、それだけがすべてではなく、赤ちゃんやご家族と向き合うたびに、その子とご家族にとっての幸せを考える視点も大切であることを実感しました。ときに、生きる時間が限られていても、家族に抱かれ、誰よりも幸せそうな赤ちゃんの姿を目にしました。
- 新生児医療はNICUで完結するものではなく、むしろスタート地点です。赤ちゃんがおうちに帰り、家族と暮らしていくためには、保健師をはじめとした市区町村、学校など社会とのつながりが欠かせません。外来でフォローアップする中で、成長に応じた様々なサポートの必要性を強く感じるようになりました。
- NICUで出会った赤ちゃんやご家族、仲間、保健師、児童相談所の方々と共にした経験は、一つ一つ強く心に残っています。それは、厚生労働省での新型コロナウイルス感染症対策や、こども家庭庁での乳幼児健診に関する政策づくりに取り組む時、折に触れて思い出され、私たちの幸せは、社会の仕組みや人とのつながりにも支えられていると考え続ける原点になっています。
- 新生児医療に興味を持つ皆さんが、この素晴らしい世界に一歩踏み入れてくれることを楽しみにしています。

- 栗嶋クララ
厚生労働省 医系技官
地域に根ざした新生児医療の誇りと未来へのバトン
- 私は地方の大学病院のNICUに勤務しています。日々の診療にあたる傍ら、医学生や看護学生に対して新生児医療の講義や臨床実習の指導も行っています。
- 講義でまず伝えるのは、日本の新生児医療が世界でもトップレベルにあるという事実です。その水準の高さは、大都市だけでなく全国どこででも均等に保たれていることが大きな特徴です。どの地域で生まれても、赤ちゃんが安心して医療を受けられる─それが日本の新生児医療の強みです。
- 自分が生まれ育った地域で、多くの小さな命が救われていることを学生たちに伝えられるのは、私にとって大きな誇りです。これは、長年にわたって新生児医療の発展に尽力されてきた先輩方の努力と全国の仲間とのネットワークによる支えがあってこそです。
- 私自身が新生児の研修をしていた頃、特に印象に残っているのが、香川県の金比羅さんで開催された学会主催の教育セミナーです。全国から同年代の専攻医が集まり、新生児医療の第一線で活躍する講師陣とともに行った2泊3日の研修合宿は、熱意に満ちた学びの場で、今も心に残る原体験です。
- あのとき受け取った感動と希望を、今度は私が届ける番です。小さな命に寄り添う医療の現場は、若い皆さんの優しさと情熱を必要としています。地域の未来を支える仲間として、一緒に働ける日を楽しみにしています。

- 岩永 学
佐賀大学医学部附属病院 小児科
赤ちゃんは偉大な先生だ
- 赤ちゃんは本当にすごいのです。
へその緒という命綱一本を頼りに、10か月間を生き延びます。
母親のお腹の中では10か月間の超便秘体質です。それなのに、多くの赤ちゃんは出生直後から快便です。
予定日から1か月半ほど前になると、勝手に胎脂という油を身体中に塗りたくってきます。どうやら赤ちゃんが自分の皮膚から分泌しているようです。
予定日から3か月前になると身体中に産毛を生やし始めます。この頃には呼吸の練習も始めます。早産で生まれてしまっても自力でなんとか生き延びる方法として獲得した能力なのかもしれません。
予定日から4か月前になると目が開きます。聞こえてきた母親や父親の声を必死に探そうとしているのではないかと思います。
予定日4か月半前、在胎22週から、私たち新生児医療に携わる大人のサポートによって、外界での時間が始まる赤ちゃんがいます。
僕たちの目の前にいる余命80年のスタートの時間を共に過ごすことができる。なんと素晴らしいことでしょう。
そして辛いことではありますが、余命の時間がわずかしかない小さな命もまた、私たちの目の前にはやってきます。そんな子どもの生きる時間を尊び、家族とともに人生を伴奏する。なんと学び多い時間でしょう。 - 全ての大人は、目の前にいる赤ちゃんと同じ体重だった時期がありました。
目の前にある小さな手は、もうずっとずっと昔に通り過ぎて記憶からも消えた「僕自身の手」なのかもしれません。だからやっぱり僕は、目の前にあるこの手の主を救いたいと願うのです。 - 赤ちゃんは僕たち大人が忘れがちな、生まれるということ、乗り越えるということ、生き抜くということ、あたたかいということ、包み込むということ、終わりがあるということ、そんな多くのことを教えてくれる、偉大な先生です。
そんな素晴らしい生命に四六時中教えを乞うことができる。それが新生児医療です。 - そして、僕の親指を握りしめることができるほどの小さな手を愛でて、僕はやっぱり思います。
赤ちゃんは本当にすごいのです。と。
- 寺澤大祐
岐阜県総合医療センター 新生児内科 主任医長
エビデンスを越えて、街に出よう
- NICUでは、毎日エビデンスに基づいた最新かつ最善の医療が選択され、積み重ねられています。しかし退院後の医療が必要な子どもと家族の日常は、エビデンスだけでは語れない選択の連続です。小児在宅医療は、医療者が主役ではなく、子どもと家族の選択を支える「究極のFamily-centered Care」と言えます。
- NICUで培った医療技術、多職種連携や家族支援という新生児科医のStrong pointは、小児在宅医療のNeedsと一致します。また、地域でゼロから支援を作るのは難しくても、医師の関与で1から10へ飛躍できる支援がたくさんあります。地域の社会課題をデザインし、家族の選択を支える、地域で必要な小児在宅医療の重要な担い手に新生児科医はなれるのではないでしょうか。
- 日本小児科学会の「将来の小児科医への提言2024」では小児科医は子どもたちの総合医として、医療施設を訪れる子どもたちはもちろん、地域へアウトリーチし,多職種協働によってコミュニティが持つ子どもたちの養育機能を向上させることが提言されています。「コミュニティ小児科学」の実践として、地域の子どもたちのアドボカシー活動への関心を高めることも必要だと思います。
- ── 街に出てみませんか?

- 荒木俊介
医療法人社団Blue Print はぐむのあかりクリニック 院長
NICUは「第2の実家」~卒業した家族より感謝を込めて~
- 2018年、私は妊娠24週4日で370gの娘を出産しました。不安や孤独、自責の念に押しつぶされそうになっている中、NICUの先生方や看護師さんが毎日「可愛いね」「強いね」と娘に温かい言葉をかけ、その命を全力で守り、私たち親の心にも寄り添ってくれました。
- 毎日片道1時間半かけて面会に通う日々。心身の負担も大きかったですが、必死で通い続けました。そして、生後2か月弱で娘の呼吸器が外れ産声を聞くことができたあの瞬間は、生涯忘れられない宝物です。
- 私はNICUを「第2の実家」だと感じています。命を守るだけでなく、私たち家族に未来への希望を与えてくれたおかげで、私は心から笑えるようになっていきました。
- 娘は今、歌やお絵描きが大好きな笑顔の可愛い小学生になりました。心身の発達はゆっくりですが、多くの人々に支えられながら、娘のペースで過ごせる毎日が幸せです。
- 早産、そして知的障害と自閉症という娘の要素への自責の念は一生なくならないと思います。それでも今、出産当時に感じていた不安や孤独はありません。「帰れる場所がある」。その安心感があったから、私自身も少しずつ強くなれたんだと思います。
- 私たちのように、これからも多くの命と家族が先生方の温かい手で支えてもらうのだと思います。赤ちゃん達を守ってくれているすべての医療従事者の皆様に、心より感謝を申し上げます。

- 坂上 彩
NPO法人pena
日本の新生児医療を世界に発信する
- ヒトにとって一番生命の危険が生じるのが出生の時です.事実,世界では毎年200万人以上の新生児が残念なことに命を亡くしています.一方わが国では,先輩諸氏の長年の努力の結果,新生児死亡率は世界で最も低い国になっています.実はわが国の平均寿命が世界一長いのも,新生児死亡率が低いからです.平均寿命は出生した児の平均余命を表したものなので,新生児死亡率が高くなると自ずと平均寿命は短くなります.すなわち,新生児医療はヒトの一生に大きく影響する医療分野で,正に人生の始まりをサポートします.もちろん医療分野に重要度の差はありませんが,長い人生の出発点を支える医療の魅力はきわめて大きいです.医療者としてのやりがいを一番強く感じる医療分野は新生児医療である,と言っても過言ではありません.事実,日本の新生児は死亡する危険性が世界で最も低いとは言え,今でも一定数の新生児は回避可能な原因にも関わらず救命することができていない状況です.日本の高い新生児医療水準を維持してさらに向上させるためには,皆さん方の優れた能力が必要ですし.また十分にその能力を発揮できる分野です.さらに,日本の新生児医療技術はその水準の高さから今や世界標準となっており,日本で新生児医療を学ぶことは世界標準の新生児医療を学び,そして世界に発信することに繋がります.やりがいを最も感じることができる日本の新生児医療を是非実践し実感して下さい.

- 楠田 聡
新生児臨床研究ネットワーク
「新生児医療へのいざない」をご覧になったみなさま、いかがでしたか。
- 私が新生児医療を目指したのはもう40年も前のこと、当時は一部の赤ちゃんを救いたい気持ちにやむに止まれなかった医師が新生児医療に孤軍奮闘していました。時代は大きく変わりました。今や赤ちゃんを治療する新生児医療の意義を疑う人はいません。
- 一方、残念ながら、日本はお母さんとなるべき方の人口がどんどん減っているので、少子化は簡単には止まない状況です。でも、いずれまた赤ちゃんがたくさん生まれる時代が来ると信じています。
- 赤ちゃんは私たち人類の希望です。その笑顔なくして人類は存続できないと思います。今回の「いざない」を見ると、新生児医療は実は大変幅広い分野で、非常に多くの方が様々な貢献をしているのがお分かりいただけると思います。
- 私は40年間、新生児医療に携わって来て、一度も後悔したことがありません。それくらい新生児医療は深い魅力に満ちています。
- ぜひ、皆さんもこの新生児医療に携わり後悔することのない充実した人生を送ってみませんか。期待して心からお待ちしています。
- 高橋尚人理事長(東京大学医学部附属病院)

